金剛杖と同行二人(どうぎょうににん)
朝食は6:30からで、7:30頃には出発した。
今日~も暑いぞ!
出発してすぐ、昨日のご夫婦を追い越すと道が二手に分かれている。
保存協会の地図では左になっていたが、「右が近道」と書いた、旅館が作った道標がある。
迷っていると、ご夫婦が追いついてきて、ご主人が「右ですよ」と教えてくれた。
高速の北側を行く道らしい。
本当は遍路道を行きたかったのだが、せっかく教えていただいたので、右の道を行くことにした。
しばらく行くと、昨日のAさんが歩いているではないか。
7番近辺には宿がないから、6番を6時半頃出てきたのだろう。
相変わらず下向き加減で、トボトボ歩いている。
「おはようございます。お先に。」と言って通りすぎたら、にこっとしていたが、私も含め、独り歩きの遍路は結構辛そうに見えるのかもしれない。
どのくらい歩いただろうか、前後にだれも見えなくなったのに、突然だれかがすぐ後ろを歩いて来る音がした。
振り向いたがだれもいない。
自分の足音でもないようだ。
ザックの揺れる音かもしれない。
でも不思議だ。
なぜ今だけ聞こえたんだろう。
急に信心深くなって、「お大師様がついて来て下さるんだ。」と思うと、気にならなくなった。
それにしても、この金剛杖、まことに具合がいい。
杖はお大師様の分身で、宿に着いたらまず杖先を洗い、床の間に置くのが作法だそうだ。
使っている時は、無意識に大体4歩に1回突いている様だが、1・2・3・4・、1・2・3・4・とリズムがとれ、長時間歩き続けられる気がするのだ。
二日目にして早、一人歩きの、まさしく頼れる相棒(失礼!弘法大師様)になっている。
さてこの道は近道かもしれないが、「天然温泉御所の郷」を超えるとちょっとした上り坂になっている。
「左の道の方が楽やったかも・・・」と少し悔やまれた。
8番熊谷寺に着くと、同宿だった人がもう納経所の前で休んでいた。
昨日とは別の遍路と親しげに話している。
だれとでもすぐに友達になれる人もいるもんだ。
8番熊谷寺
ともあれお参りを済ませ、やっぱり休まずに次を目指していた。
岩の上に立った鳥居を過ぎていくと、あたりは広い田園地帯。
こんなふうに、人も車もいないのだ。
いるのは、照りつけるおてんとうさまと自分だけ。
いや同行二人だから、
おてんとうさまと自分と、弘法大師様だった。
赤い矢印を頼りに、ただ歩き続けるのだ。
9番法輪寺を打ち、さらに10番切幡寺を目指した。
切幡寺は門前が長い坂道になっていて、両側に民宿などが立ち並ぶ門前町のような形になっている。
家並みを抜け、しばらく坂を上ると山門に着く。
10番切幡寺(10:22)
さらに奥に333段の石段があり、これを上りきると、やっと本堂・太子堂が現れた。
健脚カップル
さすがに疲れて、鐘楼の横のベンチにザックを下ろし、自販機のお茶を飲んでいると、隣のベンチに座った30才前後のカップルが、さらに登って二重の塔まで行くと言う。
遍路らしからぬ、短パンにハイキング姿だ。
くやしいので、後を追って登った。
二重の塔前は展望台のようになっていて、遠く吉野川を望む景色は素晴らしく、ここまで来た甲斐があった。
いつの間にか展望台はそのカップルと私だけになり、何となく気まずくなって先に山を下り、本日最後の9.3キロ、まずはそのまま真っ直ぐ吉野川へと向かった。
けっこう調子よく歩いていたが、喉が渇いて飲み物を買っている間に、さっきのカップルが追い抜いて行った。
あまりすぐ後ろを歩いても悪いので、少し間隔をあけて歩いたが、この二人、なかなか早い。
ついて行くのが精一杯だ。
吉野川はさえぎる物が何もなく、ただ暑かったが、広い中州に架かった2本の沈下橋を渡るのは、涼しくて本当に気持ちが良く、よっぽど川に足を浸けたかった。
だが二人がどんどん先を行くので、置いて行かれる様で休めない。
時間はたっぷりあるのに、本当に嫌な性分だ。
ところが川を渡った所で、二人は遍路道と違う方向に行くではないか。
大声を出して呼んだが、とうとう見えなくなってしまった。
仕方なく歩き続けいると、しばらくして、思いがけず前方に彼らが現れた。
ほっとした。
結局彼らは鴨島の方に行ってしまい、私はそのまま11番藤井寺に向かった。
それにしても炎天下、外を歩いている地元の人をほとんど見かけない。
しかし案外これが普通で、多くの人が行き交う大阪が異常なのかも知れない・・・。
嗚呼 藤井寺!
県道から右に入ってからは道がわかりにくく、今回2度目の迷子になりかけた。
また藤井寺直前の遍路道は、猫がやっと通れるような、細くて急な下り坂や、荒れた草ぼうぼうの小道で、いきなり古い民家の軒先から、これまた荒れ放題?の山門に、午後1時、ようやく到着することができた。
写真が傾いてしまったが、このお寺は確かに傾いている。
整備が行き届いていない。
「はしご貸してくれたら、屋根の草取りしますけど!」
率直に言うと、ボロイ。
納経所と言っても、駅の切符の改札口のようなガラス窓がある小屋があり、中の老人(タクシーの運転手が、住職と呼んでいた。)が何と罰当たりなことに、遍路の大切な納経帳や白衣に、記帳したり朱印を押したりする台の上に、こちらに向けて両足を載せているのだ。
貧しさは住職の心まで貧しくしたのか。
貧しくとも凛としていて欲しいのだが・・・
同じ札所の中には立派なお寺もたくさんある。
参拝者数が違うのか、檀家の数が違うのか、それとも住職が、女か賭け事にでも手を出したのか???(不謹慎)
まあまあ怒りも詮索はそれくらいにして、予約してある旅館吉野に向かった。
優しいご主人
着いたのが早過ぎ、お風呂が沸いていないとのこと。
そこで昼ごはんがまだだったので、自転車を借り、1キロちょっと離れた鴨島の町に食べに行くことにした。
食べるところがあまりなく、結局大阪にもあるバーミヤンで、徳島ラーメンと餃子、生ビール(一丁)!を注文した。
徳島ラーメンには、焼ブタの代わりに炒めた豚肉が、おまけに温泉卵が付いていた。
宿に戻る途中ローソンで飲み物を買ったが、帰りに自転車を立てておくスタンドを蹴ったら、壊れてスタンドが上がらなくなってしまった。
下がったままのスタンドが地面に当たるので、宿まで自転車を反対に傾けながら漕いで帰った。
宿のご主人に謝ったら、「古い自転車ですから。」と言って許してくださった。
宿は比較的新しい普通の民家を改造してあり、隣の部屋とは取り外し可能な間仕切りになっている。
また角部屋で風通しが良く、とても気持ちがいい。
お風呂も3時には沸かしてもらって、1番風呂をいただいた。
夕食時には私の他に6人。
みんなお遍路さんのようだったが、その内の、女性一人を含む4人のグループは、途中で知り合って一緒に歩いているようだ。
私にはどうもそんなまねはできない。
気ままで、人見知りをするおっさんである。
歩行距離:19.7キロ 宿泊:旅館吉野(☆☆☆)
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