御来光
夜が明ける前に目を覚まし、階下のロビーでその時を待っていたが、水平線のあたりには低く雲が居座り、ぼんやりと明るくなるものの、水平線からの御来光というわけにはいきそうもない。
ホテル前の国道を渡った堤防には、寒さをものともせずカップルが多数出没している。
本来なら夜明けと共に歓声が上がっても良さそうだが、残念な新年の幕開けとなった。
さて、のんびりもしていられない。
早々に隣のホテルリビエラにて朝食を食べに行ったが、お雑煮とおせち料理まであるバイキングなのだ。
温泉つきで、これで¥6.500とは、お遍路にはこたえられません
7:15出発
ようやく雲の上から御来光、2008年の幕開けだ!
今年も、家族・スタッフ一同、元気でがんばれますようにと手を合わさずにはいられない
道はやがて全長638mの水床トンネルに突入。
と言っても、海底トンネルじゃなかった。
トンネルを出たところが、発心の道場「阿波(徳島県)」と修行の道場「土佐(高知県)」との国境、やっと阿波の国を踏破したのだ~っ!。
どんな修行が待っているのか、今日は歩く距離が今回の区切り打ちで最長ということもあり、いつもより気合が入っている。
穏やかな中にも自信に溢れた力強さを秘めた朝日が、
「いくみ」という所の自販機コーナーには数匹のネコがたむろしていたので、昨晩買っておいた携行食用のパンの半分をちぎってあげ、彼らとしばしの歓談を楽しんだ。
時折見かける猫たちは、たまに見かける子供たちと共に、私の心をほっとさせてくれる
でもそういえば、小さな子供にはあまり出会わないな~
これじゃあますます人口が減っていくぜ
がんばれ、四国の父ちゃん、母ちゃん!
その後、うらぶれた東洋町を越え、
野根川を越えて、
遍路道から再び55号線に戻ると、そこに見えたのは、
ひたすら、ただひたすら室戸への道!
遥かに、ハ・ル・カ・ニ 霞むのが、室戸岬なの~っ
いずれにせよ、地形的に見て、あの先より手前ということはアリエナイ。
ということは・・・少なくとも今日中に、あの、あの、ア・ノ 先の先まで歩かなあかんの~~~っ
ここから先、佐喜浜までは自販機もないそうだが、いまさらジタバタしても始まらない。
おてんとうさまに励まされ、
ただ一歩一歩、ひたすら歩くのみ。
古い佐喜浜の街並みの中で、ネコにやった残りのパンを、地べたに座り込んで食べた。
道はやがて防波堤の上に続き、遠くを振り返るとそこには、確かに歩いてきた阿波の国が見えているはずだ。
その後1時間ちょっとで夫婦岩付近までやってきたが、疲労と空腹でバテバテ。
ありがたいことに、元旦にもかかわらず営業中の「ドライブイン夫婦岩」で、やっと昼食にありついた。
さて、食べたらすぐ出発!
と言うのも、距離的にはあと10数キロなのだが、歩き遍路用の地図では、室戸岬付近で突然縮尺率が変わっているため、まったく距離感がつかめないのだ。
頻繁に地図で自分の位置を確かめ、その都度「まだここかぁ、まだこんなにあるのか~」というのを繰り返している歩き遍路は、果たして私だけだろうか・・・
しばらく歩いて行くと、前方に珍しくお遍路さんらしき人が・・・
近付くと、その方は、2日前に平等寺横の「山茶花」さんで同宿した、東京の望月さんだった。
きのうは私より遠くまで歩かれて、進んでおられるはずだったが、私同様、かなり疲れておられるご様子。
私が速く歩くのを知っておられるので、先に行くよう勧められた。
お言葉に甘えて、先行させていただいたが、もうヘロヘロ寸前だ。
そうこうする内に、何か道路脇の家の雰囲気が変わってきた。
道路に面した海側に、コンクリートや石垣の高い塀を作ってあり、家が見えずに何か殺風景。
しばらくは何も気付かずに通り過ぎていたのだが、やっと分かった。
台風の雨風よけなのだ!
ということは、台風銀座の室戸岬に近付いたのだ~っ
「次のカーブを曲がったら、次のカーブを曲がったら・・・」を、これでもか、これでもかと繰り返し、夕日が山の向こうに沈むのと競争するかのように歩いていたが、とうとうアレが見えてきた。
もう近寄る気力もなく通り過ぎ、さらに少し歩を進めた所に、私にとっての歩き遍路の目的地の一つ、御蔵洞があった。
御蔵洞と空海
入り口には何故か鳥居があるが(ない方が良いのでは)、この中で間違いなくお大師様は修行されたのだ。
空海の書いた「三教指帰」には、「ここに一人の沙門あり。余に虚空蔵求聞持の法を呈す。其の経の説かく、法に依って真言一百万遍を誦すれば、即ち一切の教法の文義諳記することを得。ここに大聖の誠言を信じて飛焔を鑚燧に望む。阿國大瀧嶽に躋り攀ぢ、土州室戸崎に勤念す。谷響を惜しまず、明星來影す。」と書いてあるそうだ。
つまり、僧に教えられたスーパー暗記法「虚空蔵求聞持法」を会得するために、21番太龍寺の捨身ヶ嶽で修行した後、ここの洞窟の中で起居、虚空蔵菩薩の真言を百万遍唱えるという修行をされたのだ。
「のうぼう あきゃしゃきゃらばや おんありきゃまり ぼりそわか」 でいいのかな?
そして、空海の弟子が編んだ「御遺告」にも、「土佐ノ室生門崎ニ寂留ス。心ニ観ズルニ、明星口ニ入リ、虚空蔵光明照ラシ来ツテ、菩薩ノ威ヲ顕ス」とあり、何と、明けの明星である、金星が口の中に飛び込んだのだ~
空海が触れたであろうその洞窟の中には、古びた祭壇があり、暗い中に蝋燭が灯されていて不気味な雰囲気。
座禅を組もうかと思っていたが、怖くてその度胸はなかった。
中から外を見てみると
やはり外には空と海が見えた。
真魚から無空、教海、如空、空海と改名し、海と空にこだわり続けた彼の世界観が分かるような気がする。
いよいよ今日のゴールが近くなってきた。
最御崎寺への上り口にリュックを置いて、まだ4時前だというのにすっかり暗くなりかけた細い山道を、岬の上へと登っていった。
そしてとうとう、本日のゴールとも言うべき、24番最御崎寺に到着した。
お参りを済ませ、来た道を下っていくと、途中で先に行かせて貰った望月さんと出合った。
みんながんばってるんだ~!
出口付近の食わず芋の群生
さて、今夜のお宿はその名も「室戸荘」。
老朽化が進み、少し傾いた部屋だったが、ありがたい。
おそらく、最御崎寺が宿坊を始めたことも、その経営を苦しくさせた原因の一つだと考えられ、何やら大手スーパーに進出された地元商店街の末路のような感じがするが、けんもほろろに歩き遍路の宿泊を拒否する、遍路センターという名ばかりの宿坊に対し、お正月から泊めていただける民宿には感謝感謝である。
やがて望月さんも来られ、夕食にはいつもビール1本なのだが、今日は熱燗をもう1本、ささやかな自分へのご褒美を追加した
歩行距離:42.7キロ 宿泊:室戸荘(☆☆☆)
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